東京高等裁判所 昭和33年(く)90号 決定 1958年12月06日
少年 O(昭和一六・八・一二生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、抗告申立書記載のとおりであつて、即ち、「一、本件少年は少年院に送致せなくもよいもの、本件決定の理由中に、「少年の非行は内部的性格の外に、外部的環境に有り、依而非行防止のため、矯正教育をする必要あり」と。惟ふに、非行少年の更生は、之を施設に送つての充分に改過可能なりとの前提は、賛成し能はず之が判断は、一、少年の性格、二、家庭の状況、三、保護援護指導の有無に依つて定むることは今更他言を挿む余地はない。果して然らは、本件少年は、その保護指導は、家庭にては不充分なるも、少年が最も信頼し且つ職業的にも使用者の位置にある○○市××造船所Mありて全面的に、補導と援護し、且つは家庭の経済的方面まで援助し得るなるを此の点について参考人としての意見も聞かないのは保護者にとりて納得のいかないことである。二、付添人問題、少年の保護者は、鑑別所に至り、弁護人依頼の可否を伺いたるに、試験観察の意見も付けるのでその必要はないと、又調査官にも訪ねたるに、之も前同様に親切に言はれ安神して審判を受けたるに、殆んど数分にして、送致すると言渡され、両親は呆然として去り審判について納得し難いと言ふのである、斯る短時間に、1、記録就中鑑別の結果を知り得たか、2、調査官、保護者に意見を訊すことは不要であるか、此に於て、少年法第二十二条の規定は何の為めに存するか、少年法の大精神を忘却したる決定は何等少年及関係人を納得し難いものであつて、仮りに後日の審判に於て本件が同一の審判の結果を得るものとするも、関係者をして一応、審判は公平で親切であるとの安心と信頼とを与へる審判をこそ望むものである右の理由により、抗告申立をする。」というにある。
よつて案ずるに、少年法第三二条によれば、保護処分の決定に対しては、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とするときに限り抗告をすることができる旨定められているところ、前掲本件抗告の趣意は、右のうち、決定に影響を及ぼす法令の違反と、処分の著しい不当とを抗告の理由とするもののように解されるのであるが、しかし、原決定書並びに一件記録を精査検討してみても、原決定に所論のような決定に影響を及ぼす法令の違反が存することは認められず、又、記録に現われた本件の非行事実、少年の年齢、性格、生育歴、非行歴、仮退院後の行状、外部的環境、家庭の保護能力等諸般の事情を総合考察してみても、少年を中等少年院に送致した原決定の処分が所論のように著しく不当であるとは到底考えられないから、各所論は、いずれもこれを採用することができない。
以上の次第であつて、本件抗告は、その理由がないから、少年法第三三条第一項後段、少年審判規則第五〇条に則り、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 鈴木良一)